黄金週間
水町綜助

1997
ひらいているのか
ひらいてないのか
ラムネの瓶から転がりだした目で
すべての皮膚が内側からはちきれて
剥かれた/剥いた
滲む赤い体で
そのひとつの透明な血袋が
なににも触れないように
よろけながらすり抜けて
うろついていた


2007
透き通っているのか
つよく白熱しているのか
目を細めても捉えられないおもいでが
すべての地下鉄のブレーキ音のつんざきに
砕け/ちって
その音の名前が
重なり会いながら
打ち寄せて
だから
うろついていた


切り刻む晴天のなかで雨が降り
余白の中に立ち並ぶ鉄塔が
みどり色に濡れそぼり
切り取られながらしずかに
坂道を歩く町に


  *


僕はその町の夜を知らない
知っているのは その先横たわるベッドタウンに向かう
丘陵地の頂に咲き誇った失望と それを育てた太陽のつよさだけだ
あと強いて言えば そのように感じた錯覚だ

じっさいのところ太陽はそれを照らしてなどいなかったし
そんなつもりはなくただ種が運ばれてそこに埋まっただけだった
運んだのはもちろん蜂じゃない
迷子のオランダ人でもない
鳥だ
猛禽だ
青い色をした
猛禽だ
失望に見えたそれは失望ではなく
太陽の光だった
太陽の光に見えたそれはもちろん失望ではなく
太陽の光だった

それというのは
花のことだ


  *


光はただ過去を照らしていただけで
それだけだった
遠い距離のせいだった


  *


海へ行きたかったので 俺が 喜望峰へ 誤植のなまえを持つみさきへ


  *


その海は味噌汁だった
数種類の海藻が波間に千切れて
夥しい量が飲み込まれては打ち上げられている
とろみをもって 繰り返し
ほとんど真緑に見えるその中に紛れて
ちらり ちらり と
黄色とオレンジが覗く
近づいて 目を凝らすと 縮れた細麺
手に取ると
ラーメンだった
間違えてラーメンが入ってしまっている
台無しだ
と思ったら海洋生物の類だった
だってみたことないもの
黄色いのやオレンジ色のものや
カラカラに乾いてしまったものが
細く絡み合って波打ち際のそこここに落ちていた
よく立ち止まって見れば海原はアメフラシ
昆布 くらげ ゼリー ひとで
色とりどりのさかなとタンカー
太陽までもくぐらせる 
冷めたスープの表面
の薄い膜
母親が朝方こしらえた味噌汁
さめたうわずみが打ち寄せている
そのなかに指を突っ込んでワカメの端切れをいちまい
指で広げて
太陽を透過させた
金色だったのでたべた
風でしずくが滴って頬にしみを作る
足元に打ち寄せる波には
千切れた海草
海岸の台所

広げられたワカメを口に含んだ3日 火星に降り立ったあと久しぶりにバーボン 二十九 やっぱり似合わない
4日 セントレア 海の向こうの空港 光の城 激しい腹痛 下痢 わかめか 倒れた重機のタイヤ ひび
5日 べスパ 100 壊れてる スロットルがもどせ ない オートクルーズ 鉄雄ごっこ 腕組みのまま環状線 抜ける 下痢
6日 名古屋 静岡 東京 腹痛 下痢 夕暮
7日 腹痛 下痢 羽田空港 長電話 ウエハースチョコ
8日 山積み ライスチップス
9日 真夏日
海岸の台所遠くて
かえれなくなってしまった


  *


町を離れる ということ


  *


船に乗りたいといった
必ず広い甲板があることがひとつの条件だ
風はどうせめちゃくちゃだろう
期待している

うなばら!

とさけんでみたい
水たまりに浮かんだ蟻の気分になって
光は空気を透過するし
空気は光を透過するし
僕はそのすべてにぶちあたるし
そうしてどこまでかいけばいつの間にか海の色が変わって
遠くに見える島が相変わらず緑色だけれど
植物のかたちが見たこともなくて
砂の色がちがう
オレンジ色だ
砂の洞穴の中を想像するよ
その壁に小さな穴があいて
そこから真っ赤な西日が差し込む
帯になってその中に砂煙がきりふきのようだ
黄金のフンコロガシが歩いている
後ろ向きにころがしつづけている
糞を
ああそうだ
山手線だ
内回りの山手線の車内を
いつかの真夏の夕方
あどけなさ過ぎる少年が走っていた
進行方向とは逆方向に
全速力だった
外回りのつもりかそれは
首筋の汗の玉が透明な樹脂みたいだ
でもどれだけ速く走っても電車にはかなわないよね
だから僕もこうなった
地球まわってんのか
なら
とまるから
おれ
ながせよ
ここからさ

ローラースケート履きゃいいのか?

さいきんみないね


  *


そんなんおせえっすよ
飛行船乗りてえよ

果てしない
空!














ああ














ツェッペリン N T
N T ってなんだよ
ニュータイプか
そうか


自由詩 黄金週間 Copyright 水町綜助 2007-05-21 15:14:54
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