寝物語
美砂

お母さんが天井にひっついた電球のカバーを指さして
UFOだといった、僕はそのジョークにのっかって、
いつものように眠る前のひととき、ふざけていたんだけど、
いつのまにか「未知との遭遇」という映画の話しになって、
お母さんはその映画にでてきたUFOが、大きくてきれいですごかったといって、
興奮していた、
その豪華できらびやかなUFOにのって、
宇宙にゆけるのは、選ばれた人間だけなのだといって、
選ばれたといっても、みかけはごく普通の人で、ただ
家庭では不幸そうだった、といった、
子供もいたけど、けっきょく奥さんと離婚したんじゃなかったかな、ともいった

苦労してきりたった山の上にのぼると、
UFOと交信できる用意がしてあって、
交信に成功すると
選ばれた人はこれ以上ないほど幸せそうな顔をして
もしかしたらこの地球にかえってくることなんてできないかもしれないのに
なんの不安もなさそうに
荷物ひとつもたないで
UFOに吸い込まれていって、
そのまま宇宙に出発したのだという、
僕はそのUFOについてもっとくわしくしりたかったのだけれど、
どんなの? どのくらい大きいの? ときくと
お母さんは
「どれくらいっていわれても、とにかく大きかったけど。
もう忘れたわ、ああ、もう遅いし、寝なよ」
などと適当なことをいって、ベッドからすべりおりて部屋からでていった。

宇宙に旅立った人、選ばれた人
その人はいま、どんな気持ちでいるのだろう
宇宙は暗くないの? 寒くないの? 何を食べているの? 何がきこえるの?
お母さんに会えなくても
平気なの?
僕はその人が少しだけうらやましく、そして、とてもかわいそうな気持ちがした。
お母さんがUFOだといって笑った電球の丸いカバーが揺れているようにみえて
目をとじたら、黒い瞼の空に巨大なUFOが輝いていた。


自由詩 寝物語 Copyright 美砂 2007-05-20 22:30:34
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