この家とあの病院とそこにある図書館と
土田

?
朝ゴルジ体を食べ
細胞からケーブルを引きずり出し
視覚からネットワークへと接続する
角膜と水晶体と網膜を
ヤニくさい玄関に放つ
わたしの感情の起伏は
たばこの火柱に似ている
数時間まえもどこかで
吸殻が死んでいるのだ
傘立てのへりの
置きかけのたばこを
深い深い灰皿へ押しつけ
玄関を出た
事実はいつもそこにある

?
ロングピース通り
たった二十本の
平和の木が植えてある
商店街の中ほどで
ゴミ袋に捨てた
吸い殻が気になる
いつもわたしの最悪は
パターン化されている
散らかった無人の部屋
一週間前に焦げて穴が開いた
カーペットを思い出し
思考がとろけてゆく

?
わたしは十五年間
性器を使わずに生きてきた
図書館で性に関する本を
読まずにただ積み上げてきた
小学校のころの
保健の先生が好きだった
清潔なまま入れましょう
その神経科は
わたしの地下にあるのだという

?
「いらっしゃい」
満面の笑みで
宇宙が白衣を着て
現在進行形で太っていた
愛車は赤いクーペ
創造という一人息子がいる

?
瞬間と一瞬の
どちらがまばたきをする回数が少ないのか
鼻の穴が広がり瞳孔が死んだふりをすると
汗が風速一・五メートルの速さで吹き出る
吐き出したガムが地球を一周して
べたりとわたしに張りつくのだ

?
ここは診察室か?
目覚めたとき
神経症の烙印が
獅子座流星群に乗って
おいちに、おいちに、と
ラジオ体操する
どうでもいい事だらけの日常のなかで
調べなければいけないこと
新人類のピシャの斜塔を
新々人類のマス・コミュニティが

ももうどうでもいい

?
汗をお茶と間違える
対話は左から右へ
右から左へ新幹線のように

?
カウンセリングが始まった
(無駄だって…そんなの…)
本当はわたしもそう思う
愛の告白と同じようなもの
ソファーでバックから犯すようなもの
堂々巡りだもの
ならば水を入れたバケツを
あるいは帰らないという
ある意味で帰依だと言い切れる言動を
どうにかして

?
あたまがうまく働かない
わはは
おはは
にゃー
ブラウン管のニュースに依存し
思考が停滞しては諦念が湧き出る
チューニングすると見えざる手が
わたしをどこかと繋ごうとする
ラジオが恐くて聞けないのだ

?
会計で二時間待たせるとはどういうことだ
もう人類はテーブルの上でしか語ることを許されない
頭では完全に分かりきっているのに
とろとろと鈍行列車の車窓のように
掴めそうで

??
考えこんでいる
わたしは考えこんでいる
写真を撮るか撮るまいか
考えこんでいる
茶色に染めた髪
耳に添えたピアス
わたしは考えこんでいる
ジュッ
と音をたて
フィルムに焼きつけられる痛さ

??
大いなる“もしかして”を
疑いたかった
仮にわたしが
玄関に十二時間も
突っ立っているとしても


自由詩 この家とあの病院とそこにある図書館と Copyright 土田 2007-05-20 14:31:02
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