帰り道。
愛心

部活に疲れた放課後。
少し重く感じる鞄を左肩にかける。
ペットボトルのお茶で、からからに渇いた喉を潤すと、
いつもと違う道を歩いてみた。

最初に感じたのは、放課後になると、夏の匂いがするようになったってこと。
四月の頃は暖かい、と思っていた風も、今では異様に生ぬるくなっていて、
私でいう「夏の匂い」を乗せて、世界が赤く染まる時を、走り回っていた。

「夏の匂い」とは
土と、草と、涙と、たぶん私たちしか感じない、
「青春」
が混ざった切なくなるような匂い。

夏の匂いは優しい。
風がただ気持ちいい。
鞄のキーホルダーと、お茶の鳴らす音をBGMに
小さく鼻歌を歌ってみる。

家まで後、数メートル。
目の前から大好きな君がやってきた。
鼻歌を止め、立ち止まる。
大音量の鼓動と共に、顔が徐々に熱くなる。

すれ違う瞬間。
夏の匂いと、風と、君の匂いが、一気に私を包んだ。

「頑張れ。部活。」
かすれるような声で呟いた。
「おぉ。お前もお疲れ。」
優しく、君も呟いた。

ただそれだけなのに、嬉しくなって、顔はにやけて、足取りは軽くなって、
最後の数メートルを全速力で帰った。

そんなあたしの、いつもの帰り道。



自由詩 帰り道。 Copyright 愛心 2007-05-18 22:26:33
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