ガードマン
yo-yo


ガードマンはハンコを押す
祝日だから
ビジネス街はひっそりとしている
八十八階の窓から山が見える
あの向こうで母は
病室の四角い空を見てるのだろう
雲という名前を失った雲は
やはり雲なんだろうか
青い記憶の中を流れてゆくもの

ドアを開ける
ドアを閉める
いつもの言葉でいつもの言葉を確認する
ネクタイを締めなおし
帽子を被りなおす
ビルの角を直角に曲がって
ガードマンは消える

街の道路はどこも直角なので
自転車も野良犬も直角に曲がる
壁と壁の谷間
ガードマンは壁のまえで嘆く
異常がないということを
壁の向こうまで確かめることはできない
ガードマンはハンコを押す

迷いながらゆっくりと
ときには標識のない道をさがす
言葉を失った母は何をさがしているのだろうか
雨も青空も西からやってくるのに
もう頭痛で天気を当てることもできないだろう
エレベーターで天空の屋上へ直行し
ガードマンはハンコを押す

オレンジ色の気動車が
一日に数回停車する
若葉が燃える無人駅にひとり
ガードマンは立っている
母から手渡された小さな紙きれ
ガードマンはハンコを押す
時刻表はたぶん合っているだろう
一日だけの休日
彼はじっと線路の行方を見守っている






自由詩 ガードマン Copyright yo-yo 2007-05-11 06:42:54
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