「ひかりの信号」
ソティロ

「ひかりの信号」




ぼくは星にいた
ひとりぼっちで
裏側には、うちがあって、
温かい家族は居て
それは幸福なことだと思うけど
何故だか
ぼくはひとり


たぶん
ほんとうは誰もがひとりだということを
それをきちんとわかるだけに必要な愛情を
ぼくは両親にもらっていたのだと思う
だから
ぼくはそんなもんだと思っていた


それは失望でもあった
でも基本的にはやっぱり幸せだった


ぼくはよくそらを見た
地平線の向こう側、の
まっくら宇宙
日ごとにかわる星の配置
ただ静かに
それを見つめているのがすきだった
そんなこどもだった


ある日
近くの軌道を周っていた惑星が
ちら、とひかった気がした
目を凝らしてみると
また
ちら、ちら
とわずかにひかっているのがわかる
もしかしたらひとがいるんじゃないのか
と思って
ぼくは鏡を持ってきて
角度を調節して
いろいろ動かしてみた
空気がなければ音は伝わらないけれど
光なら届くんじゃないかって思ったんだった
光のはやさで


しばらくして
あちらからの光は
ぼくの光に反応しているように思えた
試しに

 ちら      んー      ちらちら

となるように鏡を動かすと

 ちら      んー      ちらちら

とひかり、それは返事のように見えた


ぼくはうれしくなって
いろんなパターンで
光を送った
あちらの星からも
いろんな ちら が
返ってきた


もしかしたら
あちらもうれしいのかもしれない
と思えてきた


でもぼくは
モールス信号などしらなかったので
なにかことばのかたちで光を扱えなかったし
あちらがモールス信号的に返していたとしても
ぼくには理解できなかった
S・O・S
だったとしても

もしぼくがモールス信号をしっていても
あちらがモールス信号をしらないかもしれないし
とにかく結局会話にはなっていなかったと思う


だからぼくらは
ただいたずらに
ひからせるだけだった
少なくともぼくは
それによろこびを感じていたし
きっとあちらもそうだろう
と信じていた


朝起きると
 おーはーよーうー
と気持ちを込めてちらちらさせる
あちらもちらちらひかると
ぼくはやはりうれしくなった


そのうちに会話がしたくなってきた
モールス信号はわからないけれど
じぶんの信号をつくってしまえばいいし
長い時間をかければ
きっとあちらも理解してくれて
意思疎通がはかれて
それはよりうれしいことのように思えた
そして
あちらも同じこと同じようにを考えているのでは
と思っていた




 おはよう

 きみはだれ?

 名前は?

 きみはどんなひと?

 うれしいことはなに?

 かなしいことはない?

 そっちの星にひとはいる?

 ともだちはいる?

 ぼくにはいないよ

 ねえ

 ぼくとともだちになってくれる?

 そっちにいってみたいよ

 会いたいよ

 」



訊きたいことも言いたいことも山ほどあった
ぼくは毎日がたのしくて仕方が無かった


でも
しばらくいろんな工夫をしながらひからせていると
気づいたことがあった


光が小さくなっていってる
ということ


たぶん
星の速度が違うんだろう
日を追うごとに遠くなる光
このままだと
消えてしまう
と思って
ぼくは毎日がかなしくなった
それは避けられないことだった


そして
それはこわいことでもあった
ぼくは
家族に見えないところで
たくさん泣いた
ずっと泣いてた
そして
たくさん光を送った
すこしでも、
すこしでも、
と思って



ぼくの信号をつくり終えるのは
全然間に合わなかった
さいごにぎりぎり届くところで
めいっぱい気持ちをこめて


 さーよーなーらー

 まーたーねー


とひからせた
声だったら怒鳴るよりよっぽど大きい声だった




あちらが行ってしまってから
ぼくは考えてみた
ふたつの星は太陽の周りを回っていて
ぼくの住んでいる星を
あちらの星が追い抜いたわけだから
しばらくすると
また追いつかれるんじゃないか
って


次にあちらの星がくるのはいつだろう
それは一年後かもしれないし
二千年後かもしれない


いずれにせよ
充分な時間が用意されてることに間違いはなさそうだ


ぼくは毎日鏡を磨いて
ぼくの、ぼくとあちらのための
ひかりの信号をつくり続けながら
今も待っている
いつか






自由詩 「ひかりの信号」 Copyright ソティロ 2007-05-11 03:42:41
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