駅・石切
たりぽん(大理 奔)

劔箭つるぎや神社からの
細い参道の坂道が好きだった
不思議な人体図がかけられた漢方薬局
古ぼけた占いの館
必ず救われる新興宗教の教会
日本で3番目に大きいという大仏
確かめようのないものばかりが
駅まで並んで待ちかまえている

そんな坂を上るのが好きだった
大阪の街が忘れてしまった
不合理で不可思議なあったかいものが
通りに澱んでいるようで
熱に当てられてのどが渇いたから
駅に一番近い喫茶店でレスカを頼む
どうしたらこんなに甘くできるのか
半分飲んでは氷が溶けるのを待ったり


ホームからの大阪の夕焼けは
世界一の大阪の夕焼けで
風のない日の夕焼けは
体に悪いぐらいまっかっかで
真っ白な服は染まってしまうので
注意してくださいと言うぐらいあかくて
通過する快速急行まで
ほんとうにあかくて
でも、大阪のいちばん綺麗な車窓は
そのあかい夕日のあと

難波行き各駅停車のあの車窓
意味不明の澱んだものを参道に落とした
とうめいな夜景がガタゴトと揺れる
居眠りのオヤジの頭の向こうに
網棚のデイリースポーツ

忘れちゃいけない、夜景も、参道の混沌も
僕の胸の中につっかえてはき出せない
あの頃に続く、神隠し
戻らないから、永遠に失わない故郷の




自由詩 駅・石切 Copyright たりぽん(大理 奔) 2007-05-10 21:10:27縦
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