ミシガン・レリックス
AB(なかほど)
1
教授の息子は
父親の話す世界を
土を捏ねてひとつずつ作り
アダムやイヴのかわりに
幼いころから憧れていた
ネイティヴの顔を描いた
はるか
はるかの時の後で
ただ
言葉や道理がわからないのではなく
本当のことがわからない
ただ
その方舟は
お父さんのために作ったんだ
このままの気持ちが
いつかは遺物になるのかもしれない
2
造ったものを埋めようと思い
草原を掘っていたら
本物が出てきてしまった
その土偶に
隣のミヨちゃん
という名前をつけて
博物館に送った
ねぇミヨちゃん
僕は あといくつ
真実に出会えるんだろう
それから
君の粘土板が
まだ見つからないんだ
3
誰が作ったのか
何のため作ったのか
何故 贋物と判ったのか
と
話はつきないのだけれど
人形は人形
そんなに贋物よばわりされても
と照れ笑いをしているようで
僕らの本物って
僕らの真実って
僕らの本当って
胸の中にあるのかな
記憶の中にあるのかな
でも記憶ってあやふやで
心だってふらふらで
愛する気持ちだって急に冷めたりなんかしちゃって
ああ でも
握り締めたい石ころとか
抱きしめたいぬいぐるみとか
そんなものだって本当の記憶で
小っちゃい真実だったんじゃないか
机上の空論は楽しい
それを笑って聞いてくれる優しい人が愛しい
お父さんだったかお母さんだったか
君も聞いてくれていた
それだけでも僕にとっての
真実の世界じゃないか
あの日の
あ、
あの日の
という言葉が増えて来ると
もう僕の記憶もおぼろげになっていて
それを不器用な手つきで
粘土で形づくってゆくように
誰かの記憶にしがみつきたがっているのだろう
今日
博物館に行ったよ
そこに
僕がいたよ
4
頬杖が似合うようになったら
ここにおいで
と
贋物たちが微笑みかける
ごめん
まだ
もうちょっとだけ
真実とやらを見てくるよ
ふりかえるな
ふりかえるな
前に向かって歩いていくってのは
そういうことで
誰もが帰る場所
がレリックスになるんだろう
ふりかえるな
ふりかえるな
今日が明日のレリックスになるように
もう
そろそろだよ
と
贋物たちが微笑みかける
と僕も
ベースに向かう軍服の学生が
足元の野花に気づいて
ステップでよけた
とても笑顔の似合う若者だった