限界
アンテ


しゃぼん玉が生まれた時
たくさんの仲間がまわりにあふれていた
陽の光はまぶしく
見るものすべてが新鮮だった
子供たちの手が伸びてきて
仲間のいくつかがぱちんと弾けた
悲しかったけれど
どうすることもできなかった

風にあおられて
しゃぼん玉はふわりと舞い上がった
視界が広がって
遠くまでつづくたくさんの屋根が見えた
仲間のいくつかは風に流されて
別の方向へ行ってしまった
必死に叫んでみたけれど
声は届かなかった

ぐんぐん昇って
マンションやビルをぜんぶ追い越して
街全体が見渡せるようになった
木や建物にぶつかって
仲間はひとつまたひとつ減っていった
注意するよう呼びかけたけれど
自分だけは大丈夫と思っているのか
また別のだれかがうっかりぶつかった

暗い雲が空を覆って
大粒の雨が落ちはじめた
雨粒に打たれて
仲間たちは次々と割れていった
遠いかなたに見える雲の切れ目を
ひたすらめざして
風から風に乗りかえながら
しゃぼん玉は自分を守るのに必死で
仲間たちを助ける余裕なんてなかった

急に空気が澄みわたって
しゃぼん玉は上昇気流に乗って
ものすごい勢いで昇りはじめた
空気が薄くなって
身体が膨張して
仲間のほとんどが弾けて消えた
自分自身
どこまで耐えられるか判らないのに
気休めの言葉なんて言えなかった

次第にうす暗くなって
静かになって
いつしか風もやんでしまった
おおい
呼んでみても
どこからも返事はなかった
おおい
深くなる闇を漂いながら
仲間を捜してみたけれど
だれにも逢えなかった

ごく小さな声が聞こえるようになって
源をさがすうち
自分の表面から発しているのだと気づいた
注意して見ると
ごく小さな生き物たちが表面に住みついて
ごく小さな営みをくり広げていた
しゃぼん玉が割れたらおしまいなのに
彼らはとても一生懸命で
言葉をかけることもできず
せめてできる限り生き延びようと思った
彼らのために
限界まで生き延びてみようと思った




自由詩 限界 Copyright アンテ 2004-05-05 02:17:20
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