世紀末[小説]
村木正成

「コーヒーでよかったんだよな」
「あぁ、ありがとう」
「・・・おわかれだ」
「えっ!どうしたんだ。いきなり」
「遠くで星が呼んでいる」
「どうしたんだ?」
「遠くで星が呼んでいるんだ。僕はかえらなくちゃならない」
「どういうこと?」
「僕はとおいとおい星からやって来た、宇宙人なんだ」
「本当に?どうして宇宙に帰らなくちゃならないの?」
「星が呼んでいるんだ。どうしても帰らなくちゃいけない」
「そんな・・・」
「悲しむことはない。僕が去ったら君は僕の記憶なんかなくしているのだから」
「いや、ぼくはきみのことをわすれない」
「そういうわけにはいかないんだ。君は僕のことを絶対に忘れる。そういうことになっているんだ」
「きみもぼくのことをわすれるのかい?」
「多分ね。そういうことになっているんだ」
「きみは悲しくないの?」
「君たちの言うその悲しみというヤツはすこしは理解したつもりだけど・・・これはサダメなんだよ」
「さだめ?」
「こういうふうに仕組まれているんだよ。君が生まれたのも、君が僕と出会ったのも、もちろん僕が地球に来たこともだよ」
「えっ?」
「地球の誕生したことだってそうだよ。はじめから仕組まれたことなんだ。僕たちは地球が生まれるまえから存在している」
「えっ?」
「地球が誕生したことは僕たちが仕組んだことなんだよ。」
「どうしてそんなことを・・・」
「それは・・・実験さ一種の・・・実験」
「実験?どういうことだ」
「地球はわれわれの星とほぼそっくりに創ってある。それであらゆる災害などのテストをするんだ。われわれの生活を向上させるためにね」
「そんな・・・」
「がっかりするのも無理はない。だがこれは仕方のないことなんだよ。犠牲がないことには文明の発展は有り得ないだろ?君たちだってそうやって文明を発展させてきたんだろ?しょうがないことなんだ」
「そんな・・・」
「それをひどいと思うかは君次第だが、べつに養豚場みたいに殺すために創られた空間じゃないしね」
「しかし・・・」
「これで全部の実験は終わったんだ。いいデータは取れたよ。」
「じゃぁこの星は?地球の役目は終わったんじゃ・・・」
「そうだね。役目は終わった。しかし壊すにはもったいない。なんせわれわれの星とそっくりに創ってある。実はわれわれの星は人が増えすぎてしょうがないんだ。そこで地球をあらたな移住地にする計画もあるんだよ。」
「だったらぼくたちはどうなるんだ。殺されるのか」
「大丈夫。先ほど言ったとおり殺しはしないよ。けどそこらへんは会議中なんだ。けど殺しはしないよ」
「奴隷にでもするのか!」
「奴隷・・・奴隷はいいかもしれないな。われわれには思いつかないことだ。いい考えだ。星に帰ったら報告しよう」
「そんな・・・」
「安心したまえ。先ほどのコーヒーに記憶を消す薬が入っている。君が目をさましたらすべては元通りだ。
・・・元通りだ
・・・・元通りだ
・・・・・元通りだ」


散文(批評随筆小説等) 世紀末[小説] Copyright 村木正成 2007-05-07 09:03:57
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