1977
美砂


ピアノの部屋には 古いステレオが置かれていて
横に長く重たそうで 足が細い  猫みたいに

レコードのかけかたをおぼえたわたしは
あるいちまいのレコードの秘密をしった

スピーカーに耳をおしつけて 
そのレコードをきいていると
うたをうたう女の人のものすごくちかくで
必ず 幽霊の声がする

サラサラ サラサラサラ  と

わたしは呼びかけてみる
大きな声だと 驚くから
小さな声で

でも幽霊は答えてくれない

サラサラサラと囁きながら
くらげに似た女の人の声がとぎれるちょっと前に消える
曲も終わる

レコードの針が不細工な音をたてて かえってくる

わたしはいつも首をかたむけながらそのレコードをかたづける
いくつもあるドーナツたちのまんなかのあたりに
宝物をかくすみたいに


ピアノの部屋は暗い
すぐそばに おかあさんの ワインレッドのガウンがぶらさがっている
わたしは それにふれて、鼻をなすりつける

遠くで妹をしかりつける おかあさんの声

わたしは弟を抱っこするおかあさんをみるとへんなきもちがする
弟はかわいいけれど
でも  へんな  きもちがする
妹みたいに
泣かないけれど



わたしは 息がくるしくなるまで ガウンに鼻を
なすりつける


幽霊のことは だれにも 話さない





自由詩 1977 Copyright 美砂 2007-05-06 22:14:23
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