白いカラス
はじめ

 君に告白したら 「色が黒いから」という理由で断られた
 これは差別ではないのか? 俗に言う『ニグロイド差別』(差別用語になっているけど) 「ニガーはパパが付き合ってはいけないと言うの」と君は言った
 僕は呆然とした
 ?ニガー?? そんな差別用語何処で覚えたんだ? やっぱり君の父から教わったのか… 僕だって好きで?黒人?に生まれたわけではないのに…
 それからはマイケル・ジャクソンのように整形してでも肌の色素を抜いて真っ白くなろうと決めてがむしゃらに死ぬほど働いた 僕の住んでいるニューヨーク市のブロングス区は外からの評判は良くなく 治安が悪いとされ 犯罪を起こしやすいのは黒人と言われているが 「貧困層」に僕達黒人が多いせいで 貧困による犯罪がイメージを悪くしているのだ 僕の家は6人兄弟だが一人も学校に通えなく 十分な教育を受けられずに地位のある仕事に就けず 満足な収入を得ることができない 
 僕は職を転々としながら整形費用のお金を貯め 一方で家にお金を入れていた(一番年下の弟はゴミのリサイクルでお金を稼いでいた) ビルの清掃員をやっていた頃に9・11のテロがあった 僕は世界貿易センタービルが砂を握り締めた拳から少しずつ零すように崩壊していく光景を拾ってきた家の日本製の赤い16インチのテレビで見ていた それを見て刹那的に「整形」なんて言っている場合じゃないぞ と心の中で思った
 しかしグラウンド・ゼロが建てられた頃にはまた黒人であることを忌み嫌うようになった(テロのショックで「人種なんて関係ない。人類皆平等なんだ。イスラーム過激派が憎い」と思っていた) 僕はスラムの路地のポリバケツに捨ててあった聖書を熟読して神様にどうか体が真っ白になれますようにと願った しかしその願いも空しく神様は僕に何もして下さらなかった 神様を憎んだ イスラーム過激派と同じぐらい憎んだ 僕はヤハウェを絶対に信じなかった 僕は毎夜白人になることだけを願って眠りに就いていた そして白人に?戻って? 君と一緒に幸せに暮らす夢を見たりした
 数年後 お金が貯まり 白い肌になる手術ができるようになった 僕はもう一度聖書を読み直し 「僕は間違っていない。聖書の教えに反していない。正直になること。これが聖書が一番言いたがっていることだ。僕は正直に生きている。この手術も。白人になることは僕が正直に生きることの最大の証になるんだ」と思った 僕は手術の決心をした そして手術…
 僕は生まれ変わった自分の体を見て「グレイト!!」と叫んだ が その一言だけで僕の体には言いようのない恐怖が走った 鏡の前の自分が僕の考えていた真っ白な自分と違っていたからである 恐怖心を君に振られる恐怖に混ぜ込んで 君にもう一度告白してみた すると君は
「たとえ白くなったって白いカラスはカラスのままよ」と言い捨てて帰ってしまった
 白いカラスはカラスのまま… 体に流れる血液がどす黒く映ったような気がした しょせん黒いカラスは前世の白ガラスには戻れないのである 僕は肩を落として夕日の傾く方角へとぼとぼと帰って行った…


自由詩 白いカラス Copyright はじめ 2007-05-03 02:28:14
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