食っちゃ寝牛
なかがわひろか

食べてすぐに横になったら
牛になった

あんたいい牛だね
人々は私に尋ねる
一番美味いところはどこだい?

牛になったばかりで
まだあんまりよく知らないんだ
私は正直にそう答える

まあいいさ
尻尾から順番に切り取っていこう
スープにすると美味いんだ
そう言って子どもたちが
私の尻尾を引っ張る

後は順番に食っていこう
肉は切りたてが一番美味いんだ

私は後ろ足から順に肉を切り取られる
腹の部分になると
多くの人が寄ってきた

美味い
美味い

人々は口を揃えて言う

美味い
美味い

それを聞いていると
私は少し嬉しくなる

もう頭しか残っていないんだが
あんたどうしたい?
そんな風に聞かれたので

せっかくなので
記念に取っておいてもらえますか
と答えた

お安い御用だ

私は首だけを残し
壁に備え付けられたホックに掛けられた

うん、ここなら周りがよく見える

私がそう言うと
人々はおかしそうに笑う

私はそれを聞いて
また少し
嬉しくなる

(「食っちゃ寝牛」)



自由詩 食っちゃ寝牛 Copyright なかがわひろか 2007-05-02 00:51:33
notebook Home