畑のにおい 
服部 剛

お得意さんの取引先から 
オフィスへ戻る車内

助手席の窓外は 
穏やかな田舎いなかの村と 
夕焼け空の陽の下に 
広がる畑 

窓を開けた隙間から 
入る風に 
前髪はくすぐられ 

( 今日はよい日であった・・・ ) 

ひたっていると 
窓の隙間から 
馬糞のにおいが 
鼻腔に吸い込まれ 
思わず

 ごほっ ごほっ 

と咳込んだ 

同僚の運転手は 
慌ててボタンを押し 
車の窓を閉めてくれたが 
田舎の道を通りすぎても 
オフィスに戻った後も 
何故か 
そのにおいは消えなかった 

  * 

一日の仕事を終え 
帰りの道を歩くにつれて 
胃が渋り始めた 

 げっぷ 

体内から 
湧き上がる 
あの田舎の村の 
馬糞のにおい 

( 人の姿のみにくさは 
( いつも自らの内に 
( 腐れていた  

夜空に冴えた満月の 
夜道を家へふらふら歩く 

( 咳込んでいたぼくを見て
( 慌てて窓を閉めてくれた
( 同僚が 
( 「 大丈夫? 」 
( と瞳をひろげてたずねてくれた 
( あの心ばかりが美しい 

肌着をめくったてのひらで、
しぼんだ腹を、暖める。 

( 今日はまことに、よい日であった・・・ ) 








自由詩 畑のにおい  Copyright 服部 剛 2007-04-24 18:45:41
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