うごきだす、
シリ・カゲル

僕は深夜の公衆電話ブースで
キミに聴かせる物語を暗誦している

 動物病棟に緊急搬送されたクマリスの
 バイタルは比較的安定している

すでに眠りについたキミの枕元には
3年ほど前に発禁処分になった六法
もう何年も改正されてない条文の合間をぬって
大きな虎がコシタンタンと
キミの皮膚の薄い部分に近づいていく

 クマリスはエドハリスとの闘いに敗れた
 それは後味の悪い闘いだった

虎はもうまもなくキミに襲いかかるのだろう
最悪の結末を迎える前に、僕はキミに
「おはよう」から始まる物語を届けなければならない

 クマリスの呼吸がわずかに乱れる
 エドハリスは皮膚の薄い部分だけを狙って攻撃してきたのだ

物語の完成まであとワンフレーズ
僕は少しだけフライング気味に
重力の底へ落ちていこうとする受話器に手をかけた。


自由詩 うごきだす、 Copyright シリ・カゲル 2007-04-20 22:34:10
notebook Home 戻る