たくさんのきみにできること
石田 圭太
きみの魚にふれたくて
えら呼吸を切望したら
肺が痛んだ
朝への開口を防ぐように
その
呼吸のひとつ
くちびるを
置いていく
きみの鳥をとびたくて
背中にそらを作ったら
煙になった
わかちあう誤解をほどく
その
仕草のひとつ
ゆびを
置いていく
きみの虎をおいかけて
にく食獣を決意したら
食べられた
弱肉強食から逃げていく
その
手段のひとつ
あしを
置いていく
きみの音楽をしりたくて
身に余る楽譜をひらいたら
幾つかこぼれた
流れていった を待つように
その
受皿のひとつ
みみを
置いていく
きみの地球にのりたくて
こころの自転を体現したら
重心がくるった
ゆがんだものを映さぬように
その
景色のひとつ
めを
置いていく
きみの人間になりたくて
たくさんの花々を届けたら
庭の緑が消えた
ほろびたものは嗅がぬように
その
香りのひとつ
はなを
置いていく
たくさんのきみを苦しみたくて
たくさんのきみを苦しみたくて
きみの時間になりたくて
ぼくらの一秒間を包んだら
未来が止まった
わすれた頃にめぐらぬように
その
世界のひとつ
ぼくのからだを
置いていく