不揃いカフカ
なかがわひろか

カフカが並んだ本棚をなぞりながら
一冊だけ足りないわねと
君は言った

僕はどの本が足りないのか知りたかったけれど
君の興味はもう既に他の物に移っていて
きっと尋ねても無駄なんだろう

君は長い髪を垂らしながら
一冊一冊丁寧に本の背をなぞる
まるで僕の思想を確認するかのようで
少しこそばがゆい

全部の本をなぞり終わった後に
君は黙ってこっちを振り返って
そろそろ帰ると言った

僕はもう少し君を引き留めようと
君の好きな作家や音楽や絵の話をしようとしたけれど
僕は君の好きな物はなんにも知らなかったから
黙って頷くしかなかった

君はまるで続きのように
僕の鼻をなぞって
ふふ、と笑って
部屋を出て行く

『不揃いカフカ

 不揃いカフカ
 
 お前は何が足りないのか』

僕はまだ知らない

(「不揃いカフカ」)


自由詩 不揃いカフカ Copyright なかがわひろか 2007-04-18 01:55:44
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