ノート(ふたつの指)
木立 悟




ひとりひとりを抱いて放して
そしてひとりも戻ってはこない
雨のなかの羽
ぬくもりとまぶしさ


ひたいの上の
羽の柱をまわしながら
空に立つ不確かで巨きな
ひとつの羽を見つめている


旧いひびきをすぎてゆくもの
水のかたちをひたはしり
いなびかりのなか忙しなく受粉し
あるいは滅び砕けながら
とどろきに咲く花を摘むもの


曇を曇にし
冬を冬にする粉の手が
冷たく指をひらくとき
手は水を含んだ手に変わり
みずからをただみずからを
滴のように触れてゆく


ふるえる手首を空に埋め
頬ずりのように洗うとき
指は一度石になり
そして羽へと変わってゆく


水を満たした舟のあとを
波と月は追ってゆく
岸辺の音に押されながら
舟は流れに流れを描き
流れの下に置いてゆく


羽を羽にほどきつづけ
無色に溺れる空洞を見る
石のままの指のひとつへ
粒の光は降りつもる


月のかたち 目のかたち
爪のかたち 火のかたち
舌のかたちをあなたに見せたら
あなたは見せてくれるでしょうか
あなたに満ちたあなたのかたちを


舟が海へむかうあいだも
舟のまわりは変わりつづける
舟に満ちた水の底には
眠ることのない指が居て
石と羽を繰り返しながら
静かに夜を見つめている
















自由詩 ノート(ふたつの指) Copyright 木立 悟 2007-04-15 20:34:07
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