写真だって色褪せてしまうから
紫苑

冷めかかったコーヒーが半分だけ残っているカップを取る手が

僕の向かいの席に偉そうに座るのが

お昼にかかってくる電話やメールの主が

今玄関を開けたのが

ニュースにいちいち文句をつけるその声が

鏡越しに僕の後ろで歯を磨くのが

随分細くなった彼女を支える存在が

いい大人なくせに子供みたいに車を運転するのが

僕らの少し後ろの方をゆっくり歩くのが

コタツでトドみたいに横になってるのが

シャッター音の向こう側の眸が

日曜日にわざわざ早起きをして日向ぼっこしてるのが

少し呆れながら僕らの馬鹿話を聞いてるのが

夕方頃になってから水槽を洗い始めるのが

そこでパソコンを眉間に皺寄せながらいじってるのが

いつでも聞いた以上に答えを返してくるのが

100均ではしゃぎながら買い物をするのが

おはようとかおやすみとかを受け止めるのが

老眼鏡かけてるのに新聞を遠ざけながら読むのが

ペットと喧嘩しながら掃除するのが

暖かくなってもお気に入りのフリースを着てるのが

信号が黄色なのに速度を上げない確信犯が

呑気なくせに神経質に僕の事を怒るのが

いたずらを大人気なく本気で返してくるのが

誰も合わない中途半端な靴を履くのが

たまに庭でゴルフしながら草むしりしてるのが

プリントの記入欄を埋める名前が

こっそり彼女が心配してるのだと教えてくれるのが

猫が嫌いなくせに子猫のケースの前で遊んでるのが

もう何でもいいから
僕の広がっていく空白に色を付けてくれるのが

いっその事消えないように切り取ってくれるのが


貴方だったなら


























自由詩 写真だって色褪せてしまうから Copyright 紫苑 2007-04-13 22:24:25
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