ノート(冬からの手紙)
木立 悟




特別な時が終わり
あなたは宴を胸にしまった
遠のくのではなくはじめから遠く
その遠さの上を行き来していた
うたや笑顔や踊りが過ぎ
原や道や水たまりが
火と響きを片目にしまった


かつて抱えきれずに手放した
さまざまなかたちが痛みとなり
残そうとして残されたものたちへ降り
やわらかく重い色にまたたき
内をゆるやかに変えはじめる


春のようなあなたが春を語るたび
冬のようなわたしの苦しさは増し
どこにも居ることのできない季節が
またひとつ加えられたことを知る
眠れば死に 起きれば生き返る
生き返らなければそのままの日々に何かを失い
あなたを咲きひらくあなたの前で
私は何をすればいいのかわからない


かつて源に塊があり
砕けてすべてがはじまったことを
継ぐものなく継ぎつづけ
かけらは降りそそぎつづけている
充ち填りぬまま過ぎることの理由や
道なき迂回のつくり出す輪が
野と街の接する荒地のむこうに
午後を見つめてたたずんでいる


巨きなむらさきの音の歩みが
風と熱を運び来る
風には無数のくぼみがあり
かがやく髪と背だけが見える
かがやきは泡の波になり
土の上の葉や声や
眠るかけらを連れてゆく


こだまをやりとりするように
あなたとわたしは滲んでいる
隙間からのぞきあうように近く
姿かたちのないほどに遠い
また異なる日々がはじまり
たくさんの片目がひらくとき
にぎやかな響きと火に囲まれて
あなたとわたしは隣り合う
遠く遠く 隣り合う











自由詩 ノート(冬からの手紙) Copyright 木立 悟 2007-04-13 11:47:36
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