合コン帰りに思うこと 1
んなこたーない

形式的な挨拶というものがある。
そこで交わされる言葉は一見無意味のようであり、
また実際無意味なのだが、だからこそコミュニケーションの足場を固める作業に向いている。
いわゆる社交辞令というやつである。
「何歳なの?」「いくつに見える?」
何歳であろうと、いくつに見えようと、そんなことはどうでもいい。
別に天地がひっくり返るわけじゃない。勝手にしやがれ、というのが本心である。
「犬派? 猫派?」
エリオットやボードレールの印象が強いせいか詩人には猫派が多い感じを持つが、
だからといって、こんな質問からたいした解答が得られるはずはない。
生憎ぼくは犬も猫も嫌いである。
なんでもレッサーパンダが地球上で最も可愛い動物だという説があるそうで、
言ったもの勝ちもたいがいにしてもらいたいものだが、
ぼくはペンギンを動物のなかで一番可愛いと思う。
ペンギンの種類や生態にことさら詳しいわけではないが、いままで一度も可愛くないペンギンを見たことがない。
さあ、みんなPenguin Cafe Orchestraを聞こう。

形式的な挨拶には機械的な反復で答えれば充分である。
そこに見えない暴力が潜んでいるという指摘もあるが、そもそも非暴力主義だけが能でもない。
脳みそが凝り固まっているのはお互い様である。
ところで、よく聞かれることに「好きな女性のタイプは?」というのがある。
これも一種の社交辞令なのだから、徹底的にビジネスライクにマニュアルで答えるべきだと思う。
ちなみに「好きな男性のタイプ」では、「まずはやさしくて……」から始めるのが定型になっている。
なんでも昔は「やさしい」ではなく、「勇ましい」や「雄々しい」が最初に来たそうだ。
おかげで若い時期(戦時中)はずいぶん損をした、
いまの時代に生まれていればさぞかし女性にウケたことだろう、と中村真一郎が書いていたと記憶する。
なるほど、案外こんな所から男性は軍人に憧れたり、あるいは去勢された豚のようになるのかもしれない。
が、やさしかろうと、やさしくなかろうと、モテる男はモテるし、モテない男はモテない。
ただそれだけのことである。冷静に現実を直視すればこんなこと誰でもわかる。
ともかく、話は「好きな女性のタイプは?」である。
ぼくなら迷わず「性格の悪い子」と答えるだろう。
ツッコミを入れるには微妙にぬるい答えだが、逆にこのぬるさが効果をあげるときもある。
また、一口に「性格の悪い子」と言っているが、
より正確に言うならば、「女性はみんな好きだ。つまり女性はみんな性格が悪い」ということになる。

社交辞令の場において「そんなことはどうでもいい」「勝手にしやがれ」と口に出すのはタブーである。
また、議論の場でも、さんざん熱く語ったあとで
「まあ、実際ぼくはどうでもいいんだけどね」などと文末に付け加えるひとがいる。
ひとはそれぞれ美徳のひとつやふたつ持ち合わせているものだが、
ぼくがもっとも不潔に思うのがまさにこの手のタイプである。
つまり、自意識の殻を打ち破ること、徹底した個人主義をつらぬくこと。これがぼくの美徳である。

ぼくらは言葉が軋轢の原因になることを知っている。
それはコミュニケーションには根本的な欠陥があるからで、人間性の完全なる敗北である。
しかし同時にぼくらはそれらを踏まえたうえでなお、相互理解の実現があることも知っている。
なにより第一になすべきことは無償の価値を信じることだ。
さあ、みんなJandekを聞こう。


散文(批評随筆小説等) 合コン帰りに思うこと 1 Copyright んなこたーない 2007-04-13 01:44:51
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