夜桜の候
石瀬琳々
白い桜花のあいだから
かいまみた 貴女のくちびる
いつ どこで そうなったのか
わたしの記憶はさかのぼる
赤い花は嫌いです まして
白い花が降りそそぐその中で
貴女の白い指先がこぼれおちた
白いから赤くなれない
わたしの愛はみだれています
この夜にかくれていて
意地悪くつきはなす
ちらちらと灯る指先の火を
追いかけて吹き消そうとするけれど
貴女の愛しいくちびるが
わたしの嫌いな赤になる
折れてしまうほど抱きしめると
貴女の瞳が涙をこぼす
そして 指先の火が
桜花にのみこまれ もえる
涙はなお海にはなれず
炎は広がりこの愛をつぶす
それでも赤くなれずに
貴女の指先がこぼれおちた