桜、炎上
橘のの
*
花は
斜陽に灼かれ
焦がれる音色、
ぐすぐすと、
春の夜の匂い
*
散りながらも、
果て知らぬ増殖
化け物め
*
手を振る者のあはれ、
ふり向く な、
癖になって
止ま らん ぞ
*
いろはにほへど
ちりぬるを
わがよだれぞ
つねならむ
*
桜舞台の影に、
またひとり
踊り子の顔はもうない
*
花散って
火の粉、舞う
断末魔のやうな風のこえ
*
満開
その樹の下で
女がなにかを探している
乱れ髪もそのままに、
花びらを掻きわけながら、
祈るかの姿で
やがて、
降り積んだ花骸の中、
何かが指に触った
*
般若の頭蓋
跪いたまま、
花びらを指先ではらい、
女はそれを愛でて抱きしめた
折しも斜陽の刻
その姿は
灼かれるようであり、
白髪に変わろうと
血や肉が絶えようと
いつまでも
女はそこにいるのだった
*