イーサー/イーサー
石田 圭太
イーサーになりたいと君が言った
そんなものはないと俺が言った
星、星、と君が言うから空を見れば海だった
水と煙に呼吸があるなら
与えられて/合わさって
灰水の洩れる絶望が
生まれる時の絶望が/母そのもののように
母そのもののように他は追い出すさ
押し寄せながら/絞め付けながら
残る頭はふたつ霧
果てしなく細かく充満してる
なのに今も尚、君は母みたいなものに
何も知らない俺は、少年にもなれないままに
大人にもなれないままに/君は母みたいなものに
輝いている
ほら、私の方が水かき広い
と、生まれついたものを自慢されたあの日
なんの、裏クロール
と、身に付けた技法で対抗していたあの日
ただの背泳ぎだった
ほとんど素直なままそうだった
生きる知恵が漂う場所で専用の
水かきを得た専用の
空、空、と君が言うから星を探せば海だった
だから俺達は泳いだ、泳いだ
鼓動/86.400回
それで
水みたくなってしまえば
歌いながら生きる決意をしました、と
イーサーになりたい君が言って
なにを今更と俺が言った
ふたつの狭間で意味が分かる
あの時君が
「あっ」
って
答えのようなものを見付けて
その何かを俺に伝えようとしたなら
それは意味のある音として
ここまで伝達されたのかも知れない
でも何も知らなかった
俺達は耳栓をしていたし
何も聞こえなかった
何もかも届かなかった
例えば例えようのない不安を
例えようのない今を
例えば少しでも
ほんの少しでも美しくしようと試みて
羊を数えてそれが夜でも
君も夜だし
まだ底の底で夜明けを待っているのなら
来たって
君には関係がない
それは寡黙な唄だ
俺には関係がない
俺はもうとうの昔に上がってるし
空まで昇ってるし
始めから
煙突から
煙突の先から
誰かの煙草から
どこかの煙草から
立ち昇る
飛散する
やり過ごしてしまう
煙だし
俺は
君の肺を汚くしてあげる
汚くしてあげられる
やがて君は調べ上げられる
調べ上げられる命と
調べ上げられる肺と、水と、煙と、
調べ上げられる狭間で
肺に調べ上げられる
鼓動/86.400回に還って
鉄の匂いがして、命の音が聴こえて
それでふたつ
一日が終わってしまうから