れ
恋月 ぴの
この黒い塊に火をともせば
星空にくゆる灰色の煙で
ふたり。息苦しくて
思わず咳き込んでしまいそう
エンジンを切った
深夜の車内は。ことさらに寒くて
あなたの手のひらだけが
あたしの温もり
あなたには帰るところがあって
どうやって帰ろうかと考えている
安らぎと微笑みに囲まれ
じゃれる歓声を優しくなでる。あなた
あの角を右に折れれば
あなたを奪えた
それでも
笑顔の溢れる窓辺は
決して壊してはならないものに思えて
このまま夜は明けないで欲しい
永遠の闇にいつまでも抱かれていたい
無機質に並ぶ幾つもの小さな穴は
漆黒の彼方より
わたしたちを窺うかのように。深く呼吸する
そんな気配に
途惑うわたしの手のひらへ
あなたは。そっと合図を送る
意を決した右手の動きに
イグニッションは静寂を引き裂き
日の出までの僅かな道程へ
お別れの始発駅は
あの角を左へ折れれば