マイノリティ・ウォーキング
角田寿星


【100万人のキャンドルライト!】

2003年6月22日、夏至の午後8時から10時の2時間、電灯を
消してロウソクを灯しましょう。それぞれの思いを胸に
秘めながら、暗闇のウェーブを静かに広げましょう。ある
人は省エネを、ある人は平和を思い、またある人は恋人と
二人きりの夜を過ごし、またある人は子供の寝顔を見つめ、
ある人は世界のどこかで生きる人々に思いを馳せる。

100万人のキャンドルナイト。電灯を消して、スローな夜を。


夏至の夜 電灯を消すと
妻とユキは もう眠ってしまった
妻は育児疲れで ユキは遊び疲れて

所在なさげに手足を動かす
六ヶ月になるたあくんを抱いて
明日の天気だとか
今度の宝塚記念でどの馬が逃げるとか
とりとめもなく語り合っていたが
それにもやがて飽きてしまって
灯りを借りに二人して
外に出た

思いのほか涼しい風が吹いていた

21世紀は少なからずふざけていて田舎の私鉄沿線の住宅街に
まで車が遠慮なく走ってきて半袖半ズボンのおっさんがぷら
ぷらしてコンビニの蛍光灯やらファミレスの看板やらまぶし
くて近くには24時間営業のスーパーがあるし有名な寝ぼすけ
パン屋はタッチの差で閉まっていて昔よく行ったトンカツ屋
がつぶれていて牛丼のチェーン店や新装のラーメン屋を見つ
けてレンタルビデオの前の道路は鈴なりの駐車の列で街は眠
らない日本は眠らない暗闇はやっぱり怖くて星空なんか見た
くないもっと遠くに行きたい同じことばの同じ日本の同じ街
の灯りをいつまでも眺めていたい他人の不幸も幸せも飽き飽
きだ腕の中のこの子の幸せだけ見ていたいぼくだけが幸せに
なればいいぼくは眠らない日本は眠らない日本はいつまでも
起きている

もう一つ先のブロックまで行きたかったけど
排ガスと夜風にあたって
たあくんが軽く咳をしたので
抱きなおして
ゆっくりと帰った



自由詩 マイノリティ・ウォーキング Copyright 角田寿星 2007-04-08 00:17:29
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