エビフライのタブー
ブルース瀬戸内

カラッと揚がってごきげんの
エビフライにも意地があります。
ピンと伸ばした背筋なんて
エビの本分ではありません。
ごきげんなのは所詮、愛嬌です。
無意識のうちにキツネ色を望んでいたなんて
心外の極みなのです。
エビにとって背骨のバネは重要で
これを奪われた瞬間に
エビを逸脱したとすら言えます。
つまりバネの機能しないエビのフライを
エビフライと呼ぶのは少々乱暴な言い方なのかもしれません。

カラッと揚がってごきげんの
エビフライにも意地があります。
タルタルソースとの蜜月なぞ言いがかりに近いのです。
偶然、相性に齟齬がなかっただけです。
ごきげんなのは所詮、愛嬌です。
私はタルタルソースに旨味を引き出されるために
生まれたわけではありません。
連綿と続くエビの歴史、いわゆるエビ史を支えるための
生物的本能に駆られて生きているのです。
私の主戦場は皿ではなく海です。

カラッと揚がってごきげんの
エビフライにも意地があります。
エビフライ最大のタブーではありますが
エビはカラッと揚がった後も
一度だけ背骨をピンと反らして
大きく跳ねることができます。
いつも、そのタブーを見せつけようと
渾身のバネ使いを見せると
私はとっくに口の中に入れられて
「お、生きてるかようにプリプリじゃないか」
という言葉で
バネの凄味はかき消されます。

そんな時、
タルタルソースは私を見て必ずニヤリと笑って
笑った理由を説明しようとしながら、
あなたの食道へ消えていきます。


自由詩 エビフライのタブー Copyright ブルース瀬戸内 2007-04-03 23:14:22
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