ぶかぶかの死装束
なかがわひろか

まだもう少し待って、とあなたに言うのですが
せっかちな人ですから
腕の切り口からはもう赤々とした血が
零れだしています

私は死装束をまだ縫い終わっていないので
すぐに追いかけることができません
最後まで不器用な私ですから
針で何度も指を突いてしまい
もう手のひらが真っ赤です

やっと一人分が出来上がったので
急いであなたの元へ持って行ったのですが
あなたはとっくに絶命していて
しかもその顔には安息が称えられていて
裸のままの状態が
とてもきれいだと思いました

少し大きいのですが
あなた用の死装束を着こんで
あなたを追いかけようと思います
けれど浴槽には湯に溶けた
あなたの血とあなたでいっぱいで
私の入り込む余裕がありません

あなたはいいですね
いつも自分勝手で
いつも先に物事をすすめてしまって

私は死装束を着たまま
段々絶えるのが面倒くさくなって
大きなあくびをします
あなたは随分きれいですから
このままにしておきましょう

あなた用の死装束を着て
針で穴だらけになった手を手当てして
今夜はゆっくり眠ります

まるで死んだように
まるで死んだように

ぶかぶかの死装束は
パジャマ代わりにはぴったりです

(「ぶかぶかの死装束」)


自由詩 ぶかぶかの死装束 Copyright なかがわひろか 2007-04-03 01:22:06
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