春に
川口 掌

  


春 山を見つめる
西の国から旅して来た
黄色い流れが 静かにたゆたい
ゆっくりと全てを覆い隠す

優しさだけを探して
ほかの事には目を瞑り
握りあった手と手を伝わる温もりを
それだけを真実だと
心の中で言い聞かせて生きる
そんな虚ろな日々は
西の国から旅して来た
黄色い流れと共に
覆い隠されたまま消えてゆく
真実などはじめから無かったと

あたしの中の
あなたを想う気持ちも
あなたの中の
あたしの探し物も
緩やかな流れの中
いつの間にか
気付かぬうちに包まれ
いまや 何処からも見えない

寂しさすらも優しさに変わらず
幻さえ現れぬ

春 優しさの幻想だけが
ぽかぽかと霞んでゆく




自由詩 春に Copyright 川口 掌 2007-04-02 19:08:40
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