空の子供
士狼(銀)

機上の子供は
小さな窓から海を見ている

初めて触れる景色のような動悸を感じ
ひじ掛けにしがみついたまま
見えない何かに縋る目を
深い青から離さない

雲はビスクドールを彷彿させる程白く
絵の具チューブの純度は低いことを知る
白波となった雲は海の上を走って
いるように見える
子供は空に浮く不出来な巨神兵に手を振る

手を、振る

それは緑へ
それは青へ
それは白へ

それは闇への挨拶

暫く会わない故郷への
さよならの挨拶

旅立ちの前に握手をした父の手は
子供の背中を押した最初の手
迷子になって捜し当てた母の手は
子供の頭を撫でた最初の手

さようなら
闇と棲む街

こんにちは
闇のない街

縋る目をしていた子供は
ふと海と空の境界を捕らえる
白んで煙った線は
泣き腫らして重たい瞼に優しく映って
重たい扉の向こう側に
新天地の呼吸を聴く

機械でできた翼の端は
夕焼けを受けて既に明るい機上の子供は
一度しっかり目をつむり
小さな窓にそっと蓋をした


自由詩 空の子供 Copyright 士狼(銀) 2007-04-02 00:00:10
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