ネガティヴ〜たった一つの失敗〜
壺内モモ子

料理長は私に言いました。

「刺したいやつがいたら、この包丁をかしてやる」

ああ、料理長、
今すぐ私にその包丁を貸してください。
その包丁で、
自分自身を刺したいのです。
今日、バイトに遅刻した私を、
皆は許してくれたとしても、
私は許せない。
許せないのです。
今日、バイトを無許可で休んでやろう、
と、思っていた、
自分自身を許せないのです。
たったそれだけのことです。
たったそれだけのことです。

完璧な人間なんていないなんて、わかっております。
どんなに上手にできたロボットでさえ、壊れることがあるでしょう。
しかし、
できれば私は完璧な人間になりたいのです。
そんなことを心のどこかで考えています。
ああ、私は、
なんて愚かな人間なのでしょう。
なんて愚かな人間なのでしょう。

料理長の包丁で、
自分自身の中に潜む、プライドの高い悪魔を殺したいのです。
自分自身の中に潜む、プライドの高い悪魔を殺したいのです。


自由詩 ネガティヴ〜たった一つの失敗〜 Copyright 壺内モモ子 2007-04-01 04:48:45
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