中トロ大佐
はじめ

 第三次世界大戦の最中のある国の海軍の巨大航空母艦に所属する彼は 大の中トロ好きである
 敵国の日本の文化が大変好きで 特に寿司を好んでいる
 この空母で日本が好きなどころか寿司が好きな者は彼一人しかいない 彼は内緒で日本から密輸して鮪を取り寄せているのだ
 彼は上トロは脂が乗り過ぎていて嫌いと言い 赤身は脂が乗っていなくて嫌だだと言う
 彼の部下達は彼のことを陰で『中トロ大佐』と呼んでいる
 彼は毎日のように昼食に中トロをシェフに握って貰って食べている
 シェフは「他の部分はどうしましょうか…」と弱気で聞くと
 「中トロ以外の部分は全て捨ててくれ」と命令した
 中トロ大佐は気分を害されると怖いのだ 特に中トロに関してについては
 ある日 部下達がこっそりシェフに頼んで彼の大好きな中トロを鮪一本分食べてしまった
 そのことが彼にばれ 部下達とシェフを突撃機に乗せ 日本の主力艦を撃沈させた
 それ以降誰も彼の中トロを食べる者はいなくなった そして中トロを食べている時に誰も彼に近寄る者はいなくなった
 敵国との戦いは長く続き 情勢は彼側の連合軍に不利になっていった
 彼の国の物資が不足して輸入にストップがかけられても彼は鮪を注文し続けた
 彼は新鮮な中トロしか食べない だから解体して中トロの部分だけ持ってくることは断じて許せなかったのだ
 そして戦いは終盤を迎えた
 連合軍の主力艦や巡洋艦や駆逐艦が破壊されていく中 とうとう敵国の連合軍に領土へ侵入されたのだ
 祖国が滅亡していく中でも 彼は中トロを食べ続けた
 彼は中トロが大好きなのだ
 やがて標的は空母にも向けられた
 敵国の連合軍に囲まれ 爆撃機が空を覆い尽くすほど飛んでいる中 彼は黙って中トロを食べていた
 ついに 空母が破壊された
 彼は空母が沈んでいき客員が悲鳴を上げている中シェフに握らせた最後の一欠片の中トロを心を込めて味わって噛んでゆっくりと飲み込んで海底に沈んでいった
 それから数十年 彼の乗っていた空母は 大量の鮪の住処として 一本釣りやスキューバダイビングのスポットとなっている


自由詩 中トロ大佐 Copyright はじめ 2007-03-31 05:53:33
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