一日のかけら
草野春心



  新しい服を買った
  いつものタバコを買った
  二か月分の定期券を買った
  気が狂うほど普段通りの
  おだやかな昨日だった



  僕の部屋の中には
  開けない日記がある
  白い天井と堅く冷たい床がある
  昨日買った色々なものが
  名前を失くして横たわっている
  今日という一日が
  言葉もなく僕の顔をのぞきこむ



  必要なものは何一つ欠けていない
  春物のセーターがあって
  いつものラッキーストライク
  桃色の定期券もあって
  失われることのない自分もあって
  必要なものは何一つ欠けていない



  隣で笑っていた顔は
  いつまでもはしゃいでいた声は
  もうどこにも無い
  おだやかな今日だった
  僕の部屋の中には
  もうなんにも無いよ
  たくさんの嘘と ただ一つの本当のこと
  それだけしか無いんだよ



自由詩 一日のかけら Copyright 草野春心 2007-03-30 15:59:28
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