耳鳴りの海に身を漂わせて
はじめ

 耳鳴りの海に身を漂わせて
 僕はコーラルグリーンの空を眺めながら椰子の木だけがなった小島を離れていく
 ブルシアンブルーの鯨が潮を吹いて巨大な虹が出来上がった 僕はその鯨の隣を通り過ぎていく
 空はいつまでも穏やかなまま綿菓子みたいな雲がたくさん浮かんでいる 雨が降ってきたら甘い雨が降ってきそうだ
 耳の奥はずっとキーン という音が鳴っているが 服は海水に浸していても全く濡れない もちろん海の中でも呼吸ができる
 この世界はカラフルなもの達で溢れている
 突然巨大なクロムイエローの蛸が空に大量の墨を吐き出して空が真っ暗になった
 辺りは暗くなり強い風が吹いてきて時化になり嵐が吹き荒んだ
 蛸は天候の神様だったのだ よっぽどご立腹なことがあったのだろう 耳鳴りのせいだろうか? でも蛸には耳は無いはずだ
 狂瀾怒涛が僕を大きく飲み込む なぜか激しい耳鳴りが続き 海の中で呼吸ができない 僕は窒息しそうになる 暴れて藻掻いても捕まるものは何も無い 激甚な雨が凸凹な海を打つ
 雷鳴が轟き 頸風が吹き荒れる 僕はもう精根尽き果てて 海底に沈んでいく 外の天候は酷い 相変わらず耳には耳鳴りの音しか聞こえない もう駄目かと思いかけた寸前 何者かの群れが僕を背中に乗せて猛スピードで荒れ狂う海を越えていった 僕は背中の鰭を無意識の内に掴んでいた
 気が付くと僕は小島の砂浜に倒れていた 起き上がり海を見てみると 海は平穏を取り戻したようで コーラルグリーンの空の真夏の太陽の光をキラキラと反射させて眩耀していた
 僕を助けてくれたのは鉛白色の海豚達だった 海豚達は波打ち際に一列に並び キューイ と泣いた
 僕は海豚達みんなに礼を言い 一匹一匹の頭を撫でた 海豚達は体の向きを変え 耳鳴りの海へと帰っていった 遙か彼方の夕日がゆっくりと海へ沈んでいった 太陽にもきっと耳があるだろう?


自由詩 耳鳴りの海に身を漂わせて Copyright はじめ 2007-03-28 05:49:35
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