遺言
なかがわひろか

柔らかい襞に隔離されたこの場所で
あなたの本音は大きく響く
時折波打つ羊水は
あなたの悲鳴に呼応している

あなたを愛したはずの男は
小さな自分の分身が犯した
罪が証明された途端
湯で描いた絵が乾くように蒸発した

ほんの少し私は期待していた
いつしかあなたは私を受け入れると
その温かい腕に抱かれて眠る
夜が来ることを

左様なら
左様なら

空気が鼻に入り込み
初めて奏でる涙の声を
聞くことのない
あなたと、私へ

きっとあなたと同じ型の血に流されて
私はあなたの本音を受け入れる
それが人生で一度きりの
あなたへの孝行として

左様なら
左様なら

目を凝らせば見えるでしょう
小さな小さな手のひらで
手を振る私を
小さな小さな口を開いて
バイバイとつぶやく私を

(「遺言」)


自由詩 遺言 Copyright なかがわひろか 2007-03-28 01:21:31
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