消えろ
水在らあらあ













   やさしさもみんな抜け落ちて
   そいつはセーヌの流れに消えた





キリストマリアを引っかいて
破れた爪で十字を切った

真夜中のパリをひた歩き
売春婦たちを四角に切った

残ったものは 鞭の傷跡

茨の 鞭の 棘の 血の  飛沫

背中 背中の翼は 十年経っても音も立てずに
羽ばたかない翼の輪郭を いくつもの指が
たどっては消え たどっては消え


 ああ それは それはね 美しい指たちで 指先たちでね
 そのたびに刺青は滲んでね
 そのたびに翼は泣いて
 そのたびに泣いて歌って濡れて 飛べずに


やさしさだけを取り戻そうとして
全部元に戻って
全部元に戻って
やさしさ以外全部戻って

アフリカの子供たちはいつも空を見ていて 裸足で
砂漠の熱に俺が知りようもない世界の模様を知っていた
パリのルーブル前ではガラスのピラミッドに映る青空に
スーツ着たおじさんがもたれて 
薄い金髪の頭を抱えて
この街の駅前では
南アメリカの極道と東ヨーロッパの乞食が喧嘩している
空は高くて
ジブラルタルには

ジブラルタルには
今日も
人が沈んで


 どうしちゃったの
 どうしちゃったのよもう
 何であんた今日はそんなくそったれなの
 何が面白くてそんなに笑うの



朝ね
早起きしてね
霧雨でね
海荒れててね
公園に行って
アヒルの家族を見ようと思って
おまえが あんな水掻きついた足が欲しいって
いつか言ってたから
見ようと思って
公園に行ったら
そしたら
アヒルいなくて
蛙が
ゲコって言って
水に飛び込んでね


えへへ




ねえ

ごめんね

でもね

俺はそいつを追いかけて
情けなくて
消えたそいつを追いかけて
情けなくて

やさしさだけを取り戻そうとして
全部元に戻って
全部元に戻って
やさしさ以外全部戻って



浜辺に
日が傾いて
すべてが色を変えて
その中にあって
何も変わらない
おまえが
滲んで
崩れて
おまえと一緒に
すべて滲んで
崩れて


引いてゆく潮のように
謙虚に 素直に 何か 何かに 忠実に

いれればいいね



すべてが色をなくして
その中にあって
何も変わらない
おまえが
滲んで
崩れて

もう帰ろうって
言うから


やさしさもなにもすべて 抜け落ちて

消えろ

おまえの 涙に












自由詩 消えろ Copyright 水在らあらあ 2007-03-27 10:19:20
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