deep-freeze
士狼(銀)

deep-freeze
[動](他)
2 無期限延期[保留]する.


小さな六畳間に溜め込んだ過去の残骸を
捨てる算段が立たない臆病者ごと
きゅっと纏めて窓から捨てる
海に生きる城は間もなく沈黙するから
彼らは様々に姿を変えて
各々の終焉を目指す

  悲しい傷痕は海月となって浮遊する
  寂しい銀細工ガラクタは古代魚となって深海を支配する
  切ない思い出は
  珊瑚となって色が抜けるのを待つ

懐かしさが染み付いた古いスケッチブックを
勢いよく振りかぶると
青い朝顔が
一輪
音もなく落ちた
押し花の詩集に閉じ込めた死骸と旋律は
千切れてなお美しく

  余ったページに

  臍の緒を載せて
  平らな始まりを白糸で綴じる

  翡翠の鱗を載せて
  平らな夢を赤糸で綴じる

  枯れた悪魔の背骨を載せて
  平らな友情を銅線で綴じる

  歌を忘れて冷たくなった雀を載せて
  平らな死を黒糸で綴じる

  寂しいと軽くなる弟の
  壊れかけた心臓を載せようとして
  やめる
  諦めを平らにするには
  まだオトナになれていないから

  最後のページに
  煙草の香りのするキスを載せて
  見えない影を見える糸で
  綴じる

ひとつずつ丁寧に綴じたスケッチブックは
急速に冷たくなって
深く冷凍された詩集は花の海に溺れてしまう
それでもなお
美しく
波紋の上に爪先で立ち
花弁と一緒に拾い上げる

陸に生きる新しい城の本棚の
その片隅で
海の音を知るホラガイのように
いつまでも
旋律を残すよう
表紙と裏表紙を蝶結びで
きつく
閉じる



この心が終焉を望むまで
炭酸飲料で喉を焼くことは出来ないから


自由詩 deep-freeze Copyright 士狼(銀) 2007-03-26 17:30:36
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