砂の街 
服部 剛

彼は探していた
花束を手渡す
たった一人のひと

高い壁に挟まれた路地
いくつもの窓の隙間から 
漏れるあえぎ声を耳に
彼は通り過ぎた  

( 一面の曇り空に姿を現す 
( 巨大な紅い唇は開き
( 舌をらしている 

仮想の時代に風化して 
輪郭を失ってゆく廃墟の街 

部屋の暗がりで
腰を振るにつれ
体を重ねたまま
砂の人形になる
顔の無い男と女 

やがて
結ばれた二人の体は 
風に溶ける砂となり
跡形も無く風に舞うだろう 

花束を手にしたまま
地に影を伸ばす彼は
たったひとりの女に
今日も逢えなかった 

振り返ると 
高い壁に挟まれた路地を照らす 
沈みかけの夕陽 

三日月が夜空に白く光る頃 
砂丘に建つ 
一軒の家に帰る 

鏡に映る 
彼の背後に広がる闇に 
あの紅い舌が 
垂れていた 












自由詩 砂の街  Copyright 服部 剛 2007-03-25 01:24:16
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