砂の街
服部 剛
彼は探していた
花束を手渡す
たった一人の女を
高い壁に挟まれた路地
いくつもの窓の隙間から
漏れる喘ぎ声を耳に
彼は通り過ぎた
( 一面の曇り空に姿を現す
( 巨大な紅い唇は開き
( 舌を垂らしている
仮想の時代に風化して
輪郭を失ってゆく廃墟の街
部屋の暗がりで
腰を振るにつれ
体を重ねたまま
砂の人形になる
顔の無い男と女
やがて
結ばれた二人の体は
風に溶ける砂となり
跡形も無く風に舞うだろう
花束を手にしたまま
地に影を伸ばす彼は
たったひとりの女に
今日も逢えなかった
振り返ると
高い壁に挟まれた路地を照らす
沈みかけの夕陽
三日月が夜空に白く光る頃
砂丘に建つ
一軒の家に帰る
鏡に映る
彼の背後に広がる闇に
あの紅い舌が
垂れていた