帰り道
川口 掌

   

いつの頃だか忘れたまだまだ世界は光に満ち溢れていた
毎日毎日学校が終わり家へと向かう帰り道
道端に無造作に転がる石ころ
歩道と道路の境目ブロックの下からしぶとく顔を覗かせる名も知らぬ雑草
誰かの投げ捨てた空き瓶の破れた破片
目に映る全ての世界が小さな心に キラキラ キラキラ と語りかけていた
小さな心はほんの目と鼻の先程の道のりを
大きく深呼吸しながらたっぷりの時間をかけて歩いた
小さな体に入り切らない程大気を吸い込んで
石ころや雑草やガラスの破片が放つ輝きを心に焼き付けた


時が経ち体の大きくなったそれでも変わらぬ小さな心は
日々変わらず過ぎていく会社からの帰り道
道端に無造作に転がる石ころ
歩道と道路の境目ブロックの下からしぶとく顔を覗かせる名も知らぬ雑草
誰かの投げ捨てた空き瓶の破れた破片
あの頃と変わらずあるはずの光が目に入らない
生活や 仕事や 恋愛や 友人との些細ないざこざが
小さな心を塞ぎ輝く空気を吸い込む事が出来ない
石ころや雑草やガラスの破片の光は消えて
自分自身で決め付けた当たり障りの無い
つまらない意味だけを残して転がっている


休みを取っての故郷への帰り道
電車の窓から見える雲の向こうに
そびえる山の緑に
青い海の上に転々と浮かぶ島影に
閉ざされ消えかけていたガラスの光が
キラキラ キラキラ と語りかけてくる

耳を澄ましてごらん 目を凝らして見つめてごらん
ほら 聞こえてくるでしょう
ほら ちゃんと見えたでしょう
忘れてはいけない

忘れてはいけないよ




自由詩 帰り道 Copyright 川口 掌 2007-03-24 12:40:16
notebook Home 戻る  過去 未来