性的メガヘルツ
カンチェルスキス
タバコを吸わなくたっていろんなものを吸ってる
あの女たちには体重と同じぐらいの重さの精液が必要だ
おれの
じゃなくたって誰かのものが必要なんだおれのだ水平線を殺すときのように
やればいい
おれはスカートの奥しか気にならない女たちが履いてるのは薄い色の細身のブルージーンズだ
何でも着てるものの奥しか気にならないおれは
その奥にあるものだおれが欲しいのはそれだ
電車を待ってる
しけた駅のホーム夜になれば無人の改札になって
タクシーが待機する場所もない死人より死んだような空気が
流れる駅のホームの対面のベンチで
足をぶらぶらさせてハイヒールとかそういう気の利いたものじゃない
靴を履いて
足を組んでタバコを吸ってる 二人いるから
二人分だ 二人の体重分の精液だそれが必要だ
誰かのじゃなく
おれのだ 出たがってる 意識を打ち消して出たがってる それが
おれは牢獄の中で達観したような気分で
おれに必要なものが何なのか全然分からない
その足首が邪魔だ なぜそこにあるんだそこにあってそこにいられるんだ
おれの隣に座ったガキが電車の時間はいつだとか?もうこないの?とか
言うのを若い母親が適当なことを言って携帯を覗き込んで時間を処理してる
女たちの足首はまだぶらぶら散漫に動いてて
女たちの体重分のおれの精液が靴の先から滴り落ちてる
すごく新鮮な光景だ でも邪魔をする あれはあそこにあっても
いいものなのかおれには全然分からない 足首が 全部邪魔だ
おれは言っておいたおれは言ったんだ
そこにそれがあっちゃいけない見苦しいよ
最後にちゃんと言ったんだ で 切断した
ほうが正しいと思ったから 切断した
精液が流れ出したとたん 目の前の女のことがどうでもよくなるのは
それだとわかるカツラをかぶったおっさんに天気の話を延々とされるような
つい笑ってしまうような話だ
各駅の到着を知らせるアナウンスが聞こえたら
女たちはベンチから立ち上がり火のついたタバコを線路に投げ捨てた
それから停止した電車に乗り込んで
いちばん隅の三人掛けの席に背中を向けて座った
どうやって両足首がないのに電車に乗ることができたんだろう
電車はもうこないの?とガキが聞いたのをもうこないかもしれないと
若い母親が真顔で答えたから おれは笑った
電車が動き出すと午後の太陽が反射するレールがむきだしになって
火のついたタバコのそばで女たちの足首が転がってる おれは
自分が修道女にでもなったかのような気分になって
あれは確かに足首だ
おれが切断しなきゃならなかった
足首だ
四つあるから四つの 足 首だ
精液で濡れてひどく臭ってくる
あんな女に用はなかったんだ