はつ恋
なかがわひろか

舌の味がしました
血が発する鉄の匂いを感じながら
けれどまたその味を嗜みたいと思いました
何度もしたいと思いました

その夜は眠れませんでした
胸の高鳴りがいつまでも止まず
私の心臓を振りかざす勇者の叫び声の様な
それをいなす群集の様な
大きな大きな音を立ててうるさいのです

祝福するのが恥ずかしいのか
それとも当たり前の儀式を通過しただけの私に
それほどの感想もないのか
朝はいつものように訪れました

私は太陽に微笑みかけます
しかし太陽は
きっと私に嫉妬しているのでしょう
雲に隠れてその輝きをあらぬ方向に向けてしまうのです

私はちょうど照れくさい気持ちもあったので
私を照らさない太陽が本当はありがたかったのです
そして誰にも気づかれぬ様に
昨日までの行為を思い出しながら
顔を洗い食事をするのでした

私は少しの暇ができると
一瞬で呆けた様な顔になり
あの舌の味を思い出します

私の舌はどんな味がしたのでしょう

そんなことが気になって仕方がなく
一人無表情を装うのでした

(「はつ恋」)


自由詩 はつ恋 Copyright なかがわひろか 2007-03-23 00:41:20
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