詩友への手紙 〜新宿にて〜 
服部 剛

 僕は 詩 というものの縁で、幾人もの友と出逢ってきた。もう会
わない友もいれば、長い付き合いになるであろう友もいる。かけが
えのない友がいながらも、僕等は時に「ひとり」を感じてしまう。 
そして天気の悪い日には机に顔を伏せたまま言葉を失ってしまう。 
 前に会った時は笑顔を見せていた君が、 改札で手を上げて別れ
を告げた後、僕の知らない日常で「ひとり」になってしまう夜もあ
る。だが、本当は「ひとりじゃない」ということを、一体どうすれ
ば自分自身を含め、今の世の中で感じられるであろうか。お互いに
詩を書きながら、その答を探していきたい。繊細で豊かな感性を持
つ君の詩の言葉を、僕は待っている。 

 僕が敬愛する作家の遠藤周作は「棄てないことこそが、本当の愛
だ」というメッセージを遺している。「身近な誰かも、自分自身も
棄てない」ということ・・・僕の心にもその言葉は刻まれている。  

 昨夜は僕が主宰の朗読会だった。昨日の最後の参加者が朗読した
詩の中で「透明な猫」が、寂しいと一言呟いて涙を流していた。そ
れはおそらく君や僕の心の中に・・・いや、この都会に住み、時に
心を病む無数の疲れた人の心の中に「透明な猫」はいるのだろう。
昨日深夜の新宿の繁華街でねぐらを探してふらついていた僕は、繁華街
に賑わう夜の群の中で、自らの胸の内にいる「透明な猫」の寂しい
泣き声を、確かに聞いた。 

 地下の狭い個室の塒で眠りにつき、目が覚めた僕は地上に出ると 
一本の木が冷たい風に耐えながら、揺れる無数の葉を鏡にして朝日
を反射させていた。果てなく広がる空の下に投げ出された僕は、寂
しく胸に空いた穴に手をあてながら、あの一本の木のように立つ者
となれるかと問いながら、朝の新宿に舞い降りる烏の群を横切り、 
まだ人もまばらな新宿駅の大きい階段へと歩いた。 





散文(批評随筆小説等) 詩友への手紙 〜新宿にて〜  Copyright 服部 剛 2007-03-19 18:35:55
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