「種を蒔く」
ソティロ

「種を蒔く」


種を蒔こう

花とか野菜とか植物の種を

ひとつでもたくさんでもいい



もし花なら、花束にして恋人に贈ろう

母の日には母にも贈ろう

それから大切な人のお墓にも供えよう

でももし花なら、思いっきり季節感のあるものがいい


例えばひまわりとか

ひまわりが咲くと夏だ!って思えるでしょう
元気で爽やかな感じがするでしょう
暑くても許せるでしょう

そんできみとかきみとの夏とか思い出してにやにや笑えるでしょう

もしひまわりなら一年目の一輪の種をたくさんとって、
二年目にはそれを蒔いてそれがたくさん咲いて、
その種を餌にハムスターを飼おう
ジャンガリアンのとても小さいハムスターを飼ってひまわりの種で育てよう
ひまわりという名前をつけよう
ひまわりの種ばかり食べるから

猫からも守ろう

それからひまわりの種をぼくもたまに食べよう
ビールのつまみにしよう
ひまわりの種のパンも焼こう

ハムスターが死んだらひまわり畑にそっと埋めよう
その時ぼくははじめて思いっきり泣けるだろう



野菜なら色のつよいものがいい

緑黄色野菜にはさも健康に良い印象があるでしょう

収穫の時に達成感がつよくなる気がするでしょう

ピーマンとか茄子とかトマトとか胡瓜とかそうゆうメジャーで調理のしがいがあるものがいい

たとえばピーマンなら、
艶々した濃い緑をもぎ取って、
汗を拭いてシャワーを浴びて着替えてから、
それを口実にあの子の家に行こう

そんでピーマンの肉詰めを作ってもらってそれを晩ご飯に一緒に食べよう

二日後にまた行って今度は青椒牛肉絲を作ってもらおう

あの子は「またピーマン?」とぶつくさ文句を言いながら、
でも結局わりと丁寧に作ってくれるだろう

あの子の料理が失敗したら、あの子は「でもあなたのピーマンはおいしいわ」と言うだろう
ぼくのピーマンが失敗だったらぼくは「きみの料理でおいしくなった」と言うだろう

ふたりとも失敗したら笑おう

それはとてもやさしい感じがする

くり貫いたピーマンの種は持ち帰ってまた育てよう



スイカもいい

なんだか夏のものばかりになるけど

スイカができたら縁側で食べて、
種を口の中にめいっぱいためて、
マシンガンみたいに飛ばそう
でも今のところそれはできないから
とりあえず練習からしよう

「あの種が来年またなるかな」
って言おう

小学生のときの夏休みを思い出そう

海に行こう



ほんとうは大きな木の種がいい

世界ふしぎ発見のあとの日立のコマーシャルみたいになる木
気になる木

ゆっくり、ゆっくり育てよう

毎日水をやって、ぼくがここに居る理由にしよう

旅行とかのときは、信頼できるひとに世話を頼もう

その木を守ろう

知らぬ間に、ぼくよりずっと大きくなって
太い幹と無数の枝を伸ばして、根もぐんぐん土を掘って

その木に上って町を見下ろそう
夕日も見よう

そのときぼくはもうおじいちゃんかもしれないけれど
おじいちゃんにもなれないかもしれないけれど

ぼくが死んでもその木は生きつづける

ぼくが死んだらその木の下に埋めてください
その木の養分にしてください

ぼくを悼むひとがもし居るならば、
その木を訪れて

でも、そんなひとも居なくなって
人類が滅びてもその木は生きつづける



さいごに、
何の種かわからない種もいい

どこかで拾ったり、ひとにもらったりして、
早速蒔いてみるだろう

毎日が楽しみで
わくわくしながら
でも自分のやり方が間違っていやしないかと
びくびくもしながら
暮らせるだろう

芽がでたら、とても嬉しがる
枯らしてしまっても、残念だけど、
まあ
いいや
って思う



種が欲しいなあ

でも問題がひとつあって、
種がいくらあっても
うちは集合住宅で蒔く庭がない



あっ、いいこと思いついた

だからぼくは、言葉という種を蒔こう

決まった


「そして災いという実を実らせるのね」

にやにやしてきみが言う

うひゃー



自由詩 「種を蒔く」 Copyright ソティロ 2007-03-19 02:29:45
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