月光を泳ぐ
たね。

暮れた水銀灯アーチを
潜っていた

ざらついた街
妖しい電飾の明滅
時計仕掛けの日々が
万華鏡の筒を
眼に視えぬものにする

きらびやかな銀彩は
濁った表情に果てて
追いかけた微笑ごと
落下した

さめざめとした
硝子の日々のクレバス

ねえ
ほんとうのひかりは
どこですか

夜の反照がくゆらせる
瞼の逆光の橋を跨ぐのは
涙線に月を光らせている
わたしです


巡りゆく月の道程が
やぶれた蒼い天球図を
光の包帯で拭うなら
夜にはりつけられたまま
月にさらわれるのを
待っていよう

ここからは
よく視えるのです
夜目にぽっくり浮かんだ
月の湖畔
ああ、あれは
顔のない運河から
飛び跳ねた魚たち

わたし
魚のように
誰もいない夜の
水槽を泳いでみた

往き暮れた黄昏の片隅で
あるいは
真っ暗な宇宙の切れ端で


そうしてわたし
ちいさな光の鰓で
微笑した




自由詩 月光を泳ぐ Copyright たね。 2007-03-16 13:50:45
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