キス
水在らあらあ






長い年月を波に洗われて打ち上げられた
流木のように古びた椅子に座っている
おまえがいるだけだった

正午の青空のした 影もなく

呼吸さえ 受動で
降りかかる陽射しにさらされて 埋め尽くされて
唇の両端に小さなキスを湛えて

そのキスは くちづけは 気が遠くなるほど確かに そこにあって 
でも それでも
触れたら ずっとずっと未知のかなたに遠ざかってしまいそうで
俺はただじっと見ていた サボテン越しに 
崩れかけた石造りの壁に休む トカゲと 一緒に

生みたての卵を一つ 盗んで
おまえに早く見せたくて 走って 転んで
ひどく打ちつけた膝が
熱くて

光に愛されすぎた地面から 
立ち上る吐息に濡れる芝生に
白磁のマグが耳を寄せている
壊れたビスケットのかけらに
蟻がたどりついて

サボテンの後ろに立って 俺は おまえを見ていた
膝は 熱く
卵は 暖かく
陽射しは この胸に

凍えて







自由詩 キス Copyright 水在らあらあ 2007-03-16 09:13:44
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