ゲル状
仲本いすら

昨日までやわらかかった
祖母の手には
取り返しのつかない
岩石が生えてしまった
気味悪がる僕をよそに
つうんとした口調で
おこづかいをあげる
なんて言い出したから僕は



* *


人間らしい動きをする人間が
野菜らしい彩りの野菜を手に取り
動物的にそれをくちに運ぶ

フロアでは
ラルクアンシエルが流れている


動物的にそれをくちに運ぶ


* * *


さざ波のような人だと
貴方は言った

数え切れないほど
あたしを抱いたあとに

マルボロを
焚きながら
言った
言い放ってしまったあと
またあたしを抱いた

ひげが少し
痛い。


* * * *


十八歳の夏に
大抵の蝉は恋に落ちる

落ちた後は
ダンプカーに轢かれる


またそれを繰り返すが
やめる気は
さらさら無い


* * * 


あなたはまた
あたしを抱いた

五年遡った手紙と
一緒に
あたしを抱いた

文字が淫乱に
泳ぎ始めて
あたしはまた
鳩のように鳴いた

落ちたわけじゃない


動物的にそれをくちに運ぶ。


* *


後ろから突かれるたびに
背中には灼熱が産まれて
それが少しずつ私を溶かし
残った私は
貴方のことばかり想っていた

想わずには居られなかった。


* **



からっぽに、
からっぽを注ぐと


からっぽなの?





それは貰えないと
断りながらも
僕の目は岩石が持つ
その札束に目が眩んだ
しかしその後
岩石から暖かい
液体が流れている事に気づき
僕は口を塞ぐ


* * *


あなたにまだ
知っていて欲しいことがあったの

あたし
とてもとても
人間だったのよって事。





ぬめりとした其れは
かつての祖母の抜け殻を脱して

今まさに
にんげんになろうとしている





明日には、
脚が生えて

世界中の写真を撮るのだと
あぶくを出している。





自由詩 ゲル状 Copyright 仲本いすら 2007-03-15 18:24:13
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