祈れ
水在らあらあ





?.

神経質そうに痩せた手を合わせて祈っている
ひざまずいて
教会の中 ステンドグラスを割ってこぼれる夕日に溶けそうな 
白金の髪

俺はその斜め後ろに座って
じっと 目を閉じて 一日の疲れを感じている
木槌を一日振るっていた右腕が
熱く 遠い

十字を 切ってみる
そして 指先にくちづける 
杉と潮の 匂いがする
そこにおまえの匂いはない

見上げる
天井は高く

手の傷は 今は静かに
仕事上がりに波打ち際で
浜辺の砂をこめて洗われた
悲鳴を忘れて
  

   そうやって離れて行っちまえばいい
   そうやって忘れちまえばいい


此処は人の住まない神の家だ
それでも俺は今夜は此処に泊まりたい
そう思ってんだ
そう思ってんだろ なあ

右手で
前の椅子の背を掴む
握り締めると
俺の手から暖かさが流れて
肌色に変わってゆく

ただ

暖かさを
あげたかった
雪原のように白いおまえの肌に
春風が 吹き荒れるまで






?.

悪事を 後悔を知らない 小さな手を合わせて祈っている
ひざまずいて
真夜中のキッチン 冷蔵庫の 隣

俺はその目の前に立って
じっと 目を閉じて すべてを感じている
海岸沿いの山道を一日歩いていた膝が
笑う

十字を 切ってみる
くちづけは しない  できない
テーブルの上 絞られて 冷めきった空白を湛えて 静かに
レモンが 香っている 

見あげる
天井は遠く

手の傷は 今は静かに
BETADINE 混じりの
涙を 
滲ませている


     こうやって離れてゆくんだね
     忘れられる わけがないね


右手を
おまえの頭に置く
力を込めると
俺の手から
血が流れて
流れて
さみしがって

おまえの
涙を呼んだ






?.

祈れ

傷ついて熱い右手と 無傷で冷めた左手を合わせて祈れ

真昼間 石畳に ひざまずいて
青空の青さに祈れ

見上げて 目を閉じて
すべての匂いを思い出して
その中で一番
魂をえぐる悲しみに

傷ついて熱い夜と 無傷で冷めた朝を込めて
傷ついて熱い銀河と 無傷で冷めた太陽を込めて
傷ついて熱いおまえと 無傷で冷めた純情を込めて

祈れ












自由詩 祈れ Copyright 水在らあらあ 2007-03-14 07:27:07
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