朝の名前
銀猫
窓硝子を挟んで
浅い春は霧雨に点在し
わたしに少しずつ朝が流れ込む
昨夜見た夢を
思い出そうと
胸を凝らしたら
微かに風景が揺れた
なかば迷子の眼で
周りを見渡すと
行き先を書いたはずの小さな紙から
文字や記号が零れ落ちて
雨にすっかり滲んでいる
鞄の中の
持ち物を全部ひろげて
古い靴はもう
棄ててしまおう
三月の翡翠色に惑わぬように
地図を塗り替えて
漂う雨の匂いと
手のひらの温もりを連れて
夜明けには
真新しい名前のわたしで目覚めよう
旅立ち、という三月が
木蓮の蕾を開き
語り忘れた言葉を
白い白い蝶に変えるまえに