BGM
はじめ
停車中のBMWの鼓動が聞こえる
よく耳を澄ましてみるとR&Bの打ち込みの音だった
人々は行き交い通り過ぎていく
黒張りされてよく分からなかったがBMWのドライバーは留守のようだ
エンジンを入れっぱなしにしている
車内のミント系の香水の匂いがここまで漂ってきている
僕は立ち尽くしている
誰も気にも留めず足早にあらゆる目的地へと向かう
中には目的のない人もいるだろう
例のドライバーはまだ帰ってきていない
車は宝石店の前に止まっている
僕は広い空を眺めているだけだ
灰色の街
空を飛べてこの街を飛び回ればいいのにな
車内のBGMが正確なリズムを刻んでいる
BMWから伸びる何かが風を斬って進む車道の車に轢かれる
僕はBMWと共鳴して車道を走る車の風を斬る音に心を傷つける
もうしばらくBMWと一緒にいたい
しかし宝石店から女性を連れてドライバーが出てきた
髪を後ろに持っていっている 茶髪だ
女性の方はあまり目立たなかった
ドライバーは左のドアを開けて滑り込むようにして車に乗った
女性は腹が立つぐらいにゆっくりと車内に入った
ブウウンとエンジンを噴かしてBMWは発進した
僕は排気ガスを全身に浴びて匂いを嗅いだ
排気管から零していた涎が小さな染みをつくっていた