マルボロ(リミテッド・エディション)
高田夙児
夜
きれた煙草を買いにコンビニにいったら
店員である友人のBが
マルボロ新しいの入ったよ
とレジ打ちしながら眼の前に立つ
ぶす・でぶの大学生らしき女を無視して言った
ああそう
と僕はジーンズのポケットにライターを入れ忘れた気がして
指で弄りながらレジの前に立った
ぶす・でぶの女は俯いたままビニール袋を下げて
横へスライドしていった
そのとき揺らいだ女の髪が少しきれいだった
おいどれだよ
Bは黙って奥へひっこんですぐに戻ってきた
これこれ よくね?
赤いメキシカンなパッケージにブーツの形をした銀色のライター
そういや
レジェンド・オブ・メキシコでジョニー・デップが
アー・ユー・メキシカン? オア メキシカント?
という台詞を言っていた
僕は笑ったが隣にいた彼女は笑わなかった
かっこいいね
僕はレジに手をついて言った Bは少し笑って
俺すぐ買ったよ マルボロなんて吸わないのにさ
そうだよね Bは何だっけ、セブン・スター?、だっけ?
ほん お前赤マルだよな
うん それ買おうかな 3パック入ってるんだよね
そうだよ ライター入れても900円だし 買えよ
じゃ もらおっかな
客は自動ドアから誰も入ってこなかった
ガラス戸越しに見えるマンションの明かりは
僕の家のようでもあり そうではなかったのかもしれない
はい 900円
ピ とバーコードをよんで Bは煙草の入ったビニール袋を突き出した
僕はそれを受け取って 1000円札を出した
釣りはいらねえよな
と笑って Bが言う
まぁ と僕は曖昧に笑ってコンビニを出た
冷たい風がまだ春を 冬が追いかけている
と思った